ねじまき鳥クロニクルに出会った頃

ねじまき鳥クロニクルに出会った頃

新宿駅の雑踏と色彩のない未来

彼女が読んでいたハードカバーの本は「ねじまき鳥クロニクル」というタイトルだった。

彼女が見つめるその分厚い本の中に一体どんな世界があるのか、その大人びた眼差しの先にある物語は僕にも手を伸ばせば届くのだろうか…

伸ばした手のひらにその世界は存在してくれるのだろうか…

電車を降りると紀伊國屋書店に向かっていた。

その日僕はねじまき鳥の鳴き声が聞こえる世界に足を踏み入れた。

そしてその日から25年経った今もまだその世界から抜け出せてはいない…

ー〈初期衝動に駆られたのはそれが初めてではなかった。〉

幻想と現実の、理想は現実の、

夢は現実の、色彩のない未来と。

限りなく深い、そして暗く長いトンネルの中に埋もれていくとは知らずに。

あの日の眩い光が涙に変わる、貴女の風を予感して。

綴【Ryusei】