ドーナツの穴の向こうの景色と痛み

ドーナツの穴の向こうの景色と痛み

新宿で見つけた夢と絶望と予感

あれは25年前、僕は小田急線沿いの小さなアパートに住んでいた。

職場が新宿だったので毎日電車で新宿駅まで通った。

そこでいつも同じ車両に乗る一人の女性を見つけた。

彼女は黒いリュックからハードカバーの本を取り出し熱心に読んでいる。

多分僕より年上で派手な感じでもなく、かといって地味な感じでもない。

新宿駅に着くといつものようにダンキンドーナツに立ち寄りコーヒーとドーナツを注文した。

ふと気になってドーナツの穴を覗いて見ると、そこには今まで見たことのない景色が…

憧れた夢が粉々に切り裂かれ灰になって銀色に輝き甘い香りの絶望が寄り添って宙を漂っていた。

何か予感がする…

僕はこの先一体何を求め、何を失い、生きる意味を知ることができるのだろうか。

今思えばここが自分の居場所であり、原点だったのかもしれない。

そんな記憶の中に生きる夏の想い出。

綴【Ryusei】